40年前のコンピュータ・チェス
火曜日, 13 4月 2010
コンピュータ将棋が今秋清水市代女流王位と対戦することが話題になっています。
→情報処理学会が日本将棋連盟に「コンピュータ将棋」で挑戦状(社団法人情報処理学会)
たまたま先日、コンピュータ将棋に関する昔の記事のコピーを東公平さんからいただいたのでご紹介します。最近はネット中継を見るのにGPS将棋のtwitterのつぶやきがないとさみしく感じるほど、コンピュータ将棋にはまっている私ですが、コンピュータ将棋ファンから見ても、今回の対戦で初めて興味持った方から見ても、とても興味深い1967年の記事、朝日新聞の特ダネだったそうです。
電子計算機で詰め将棋 アマ初段の腕前
電子計算機に、将棋をさせたらどうなるか。このたのしい難問に取り組んだ若い技術者のグループが、最近一つの結論に達した。「将棋をささせるのはむずかしいが、詰め将棋なら解かせることができる」。
このグループは日立製作所日立研究所員の越智利夫、亀井達弥、日立工場の内ヶ崎儀一郎さんの三人。越智さんが将棋初段、亀井さんが囲碁五段、内ヶ崎さんが連珠四段の腕前。国産HITAC5020E型の最新機を使い、まずコマの動き方、二歩はいけないなどのルールを教え、与えられた問題を座標にして吹き込んだ。
ある問題など、加藤一二三八段が60秒、機械が90秒と、プロ高段者なみの早さで解いたそうだ。加藤八段の判定では、現在電子計算機の腕前は詰め将棋に関してアマチュア初段という。
図(※写真)の詰め将棋、正解は8四金、9二玉、8三金、同玉、7三角引成、9三玉、9四銀、9二玉、8三銀成、8一玉、8二馬までの十一手詰め。計算機はこれを7、8秒で解いた。
この研究を発展させて行くと、いずれは人間より強い機械が出現し、プロ棋士は廃業ということになりはしないか。
「いや、それはとうてい無理。詰め将棋は王手の連続という制限があるので、どうにかやれるが、なにしろ教えた瞬間のことしかできないのだから、初めからさすには、膨大な資料を教えこまなければならない。将棋や碁は、その点複雑すぎる」というのが越智さんらの結論である。
三人はこれからチェスをさせる研究にとりかかる。すでにアメリカとソビエトで、計算機同士がチェスの対戦をしているが「この勝者を負かしたら痛快だろうな」という。 (朝日新聞 昭和42年7月4日より)
臨場感あるいい記事です。詰め将棋もいい題材。囲碁将棋連珠のチームが組んだ、というのも興味深いですね。越智さんたちにとって、今の状況はどう映るのでしょう。見えない未来を想像して動く研究者はいつの時代も尊いと思います。
次にコンピュータチェスが日本で初めて人間と対局した記事をご紹介します。こちらも長いですけど、素晴らしい記事なのでぜひ読んでみてください。コンピュータ将棋に通じるものがはっきりと書かれています。コンピュータの専門誌に掲載されたようです。
CDC6600システムと対戦して 東公平
「コンピュータとチェスの対局をしてみないか」という話があったとき、私は美しい女性と逢ったときと同じような衝撃を胸に受けまして、大喜びで引受ました。
チェスは私にとって道楽のひとつに過ぎないのですけれども、生来の物好きが災いしてかなり深入りしており、洋書を何百冊も買い込みながらちっとも読まなかったり、自費でヨーロッパなどへ試合に出かけたりするので、最近は家計にひびきます。早くやめてマジメに本職に打ち込もう、と決心は何度も致しますが、今度のように新奇な話が持ちあがりますと、どう仕様もなく心が騒ぎ、万障繰合わせてしまいます。
コンピュータのチェスに関しても多少の予備知識がありましたから、まず絶対に負けることはないと思いました。で、国際親善のために日本チェス協会の女性会員をつれて、晴海のコンピュータ・ショー会場へ、ぶっつけ本番で出かけました。
CDC6600なる”超大型選手”に対し、まず中川笑子さんが挑戦。同時にいくつもの仕事をしていた故でしょうが、”彼”は意外に着手決定がおそい。約30分たって優劣が不明なので一応、ドローということで中断し、私が第二局を挑みました。持ち時間各10分と制限して始めたところ、途中で”彼”の方が時間切れになり私の勝ち。内容は互いに不出来。したがって”彼”の実力も見極めが困難でした。
第3局、強豪・松本康司氏が挑戦。氏は意識的に『静かなゲーム』つまり、変化の枝の少ない形を採用しました。すると俄然、”彼”は好調になり、早指しでみごとな中盤戦を展開したのです。係の人がプログラムに多少手を加えたのだそうですが、この辺でようやく”彼”の棋力がわかってきました。結果はドローになりましたが、対中川戦と違って、理論的に絶対勝負のつかない形に持込まれたのですから、少し見直しました。このプログラムはアメリカでの最高級ではなく、きっと客と勝ったり負けたりするショー向きのものなのでしょう。次の機会にはもっと手ごわいのが来日すると思われます。
第3局での実験から、私は技術的に面白いことを考えたので、特に閉会後居残らせて頂いて、再度戦ってみました。時間制限ははずしました。『ダニッシュ・ギャンビット』と名のある猛烈な速攻形で”彼”の受けの力倆(※原文ママ)を試しにかかりました。いわば高水準の『ハメ手』なのですが、”彼”は長考につぐ長考で、立派に二枚腰の受けを案出し、抵抗してきます。
しかし人間代表の悪知恵は、真正直な”彼”の弱点をとらえて徐々にキングを追い込み、どうしても防ぎようのない形になりました。図が私の22手目、ナイトをd6へ進めた局面です。
“彼”はここで油汗を流した…かどうか係の人にたずねてみなかったのでわかりませんが、10分ほど考えたあげく、絶望であることを納得したのでしょう。d筋ポーンを前進させ、私がクインをf7へ動かしてチェックメイトにしますと、英語で「楽しかった。ありがとう」と、シャレた投了のあいさつを送ってきました。
チェスの生命は無限といえるでしょう。ざっと、10の120乗通りの変化があるといいますから、CDCの”超大型選手諸君”にとっても、成長のための、有益な頭脳鍛錬法であろうと推察致します。十数年前から、米ソ両国でコンピュータ同士の試合などを織込みつつ、かなり強力に研究が進められておりますし、日本でも間もなく成功するでしょう。ことさらにこういった試みを毛嫌いする人もあるようですが、”彼”にとっても、ゲームは道楽に過ぎず、真の目的はさらに有益な使途を見出すことであると聞いておりますので、私は”彼”のリターン・マッチ申込みを心待ちにしております。(朝日新聞将棋観戦記者・元日本チャンピオン)
(CONTROL DATAニュース第78号 1970年11月1日 (5)面記事より)
とてもいい時代だなと思います。新しいことにワクワクする気持ち、まだ見ぬ世界。現代にどれほど残っているんでしょうか。うらやましく、まぶしいです。
No. 1 — 4月 13th, 2010 at 12:37 PM
[...] This post was mentioned on Twitter by pie_co. pie_co said: 皆に見て欲しい記事を見つけたので紹介しました。とても味わい深い、1970年のコンピュータ将棋・コンピュータチェスのおはなしです。>40年前のコンピュータ将棋(ピエコデザイン)http://bit.ly/acrKw1 [...]